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異島電設株式会社
(福岡県北九州市)
飛松さん 異島電設会社は、1985年(昭和60年)設立。電気設備の設計施工などを行う電気工事業である。
現在の社員数は25 名(2023年1月現在)。
今回は、総務部係長の飛松三紗子さんからお話を伺った。
社内総務課に“健康づくり担当窓口”を設置し、相談内容に応じて、配置や出勤時間の配慮といった社内での調整や病院との連携などの対応を行っている
まず、メンタルヘルス対策、健康経営への取り組みに関して、お話を伺った。
「当社の主な業務である電気工事には、知識と経験を備えた技術者が欠かせません。電気工事は、朝から夕方まで客先に出向き、体力と気力を要する作業です。そのため、社員の健康と安全管理には、長年特に配慮してきました。」
「国土交通省が2021 年10 月に発表した“最近の建設業を巡る状況について”によると、建設業就業者数は、ピークの1997年以降減少傾向にあり、現在は55 歳以上が3分の1以上を占め、高齢化が進んでいます。当社も、現場作業場所へ出向く現場作業員の年齢構成は、55 歳以上が6名、45~54 歳が5名と高齢者が多い状況でした。約10年前から採用活動を強化したのですが、なかなか採用まで結びつきませんでした。」
「そこで、まずは45 歳以上の社員がより長く健康に働けるようサポートし、若手社員への技術の継承を長期的に行えるようにすることと、若手社員の確保につながることを会社全体の目標として、“健康経営”に積極的に取り組むこととしました。」
「最初に行ったことは、メンタルヘルス研修です。メンタルヘルスの基本を学ぶことで、悩んでいる社員への接し方など、なんとなくではあるかと思いますが、社員の中に意識づけがされたと思います。」
【図1】健康宣言書 「そして、メンタルヘルス対策の一環として、業務に関する相談に限らず、健康や個人的な悩みごとの相談も受け付ける“健康づくり担当窓口”を総務課に設置しました。主に総務部長と私(飛松さん)が対応しています。当初は、社員も何を話したらよいのかといった戸惑いがあるように感じましたが、相談内容に応じて、配置や出勤時間の配慮といった社内での調整や病院との連携などの対応を行う中で、話しやすくなってきたのではないかと感じています。また、全社員、会社負担による生命保険に加入していますので、入院給付金などの保障も充実されており、健康相談時にはそのこともあわせて話しています。」
「その他、社員の健康診断はもちろん扶養家族を含めた、インフルエンザ予防接種の費用の一部補助も継続して行っています。補助の対象を家族まで広げたことで、家族間での感染対策につながり、特に子育て中の社員から高い評価を得ています。」
「このような取組みを、協会けんぽの支援のもと、2016年に“健康宣言書”としてまとめました(【図1】参照)。職種に関係なく、現場先でも事務所の中でも、社員が無理なくできることを目標に掲げ、各責任者主導のもと実践しています。また、2017年には経済産業省による“健康経営優良法人認定制度”がはじまると知り申請したところ、“中小規模法人部門”で市内初の認定を受けました。以来、6年連続で受賞しています。」
若手社員への教育により若手が成長し、自分たちの業務量が減ったことで、時間的・精神的な余裕が生まれ、若手社員への教育時間にあてるといった好循環が生まれている。
次に、これらの取組みが新規採用につながり、新入社員へのメンタルヘルスケアに役立っている点などに関して、お話を伺った。
「新規採用面で、大きな動きがあったのは2018年頃です。初めて女性の電気工事士を採用しました。以前は大手企業で電気工事の一部に関わっており、本格的に電気工事士として働きたいという希望でした。入社後、すぐに女性用の休憩室やトイレを整備し、教育係として担当者を決め、フォロー可能な現場を選ぶなど、できるだけ不自由なく働けるようにサポートしました。彼女の前向きな仕事ぶりに触発され、これまで職人気質で少しぶっきらぼうだった周囲の現場作業員の意識や態度が変わったのは思いがけない成果でした。メンタルヘルス教育を行った効果がここにきて現れてきたようにも思いました。」
「翌年には、地元の高校卒業の新入社員が現場作業員として、数年ぶりに入社しました。彼はまだ電気工事に必要な資格を取得していなかったので、私と一緒に試験勉強をすることにしました。試験の中には実技試験もあるのですが、現場で余った電線などを教材に、先輩たちが率先して教えていました。そのおかげもあり、1年目で必要な電気工事の資格を取得することができました。」
「同じ時期に、ベトナムからの技能実習生の受け入れもはじめました。言葉がほとんど分からない中で、私も最初は可能な限り現場に同行していました。また事務所のすぐ近くに社員寮を用意し、寮母のように毎日顔を出していました。現場作業員も、直近の経験を踏まえて、教えて育てることを大切にしているように見えました。現場から事務所に早く戻ってきた時には、片づけを行いながら、余った材料をもとに、先輩たちが工事手法を教えるといったことが自然と行われていました。以前は、『現場作業は見て覚える』という考え方が根強く残っていましたが、新入社員がわからないことは親切に教え、チームでサポートしながら人を育てていく風土が醸成されてきたように感じました。また、新人の皆の明るさと熱心な姿勢が、建設現場での雰囲気作りや環境整備に多大な効果を生み出していき、現場作業員の顧客への対応も柔らかくなってきました。そして、昼食時には雑談も増え、会社全体としてのコミュニケーションも円滑になってきました。」
「毎週1回、現場作業員管理者の全体会議があります。その時間、若手社員たちは5~6人で会社の周囲の清掃作業をするのですが、私も一緒に掃除をしながら『最近どう』といった声がけを積極的に行っています。最近は、地元の高校を通じて、毎年新入社員が入ってくるようになったので、新入社員の相談を私もよく聴いていますが、できるだけ『まず先輩に聞いてみたら』と1年早く入った新入社員に相談してみるよう勧めています。年齢の近い者同士で話をして解決する仕組みをつくることが大事かなと思っています。」
「自分よりも下の後輩に当社を紹介してくれるといった流れは、高卒生だけではなく、ベトナムからの実習生にも現れています。おかげで、長年の人材不足が解消され、年齢構成も若がえってきました(【図2】参照)。高校生への紹介にあたっては、“健康経営法人優良法人(中小規模法人部門)”の認定も当社のイメージアップに直結したようです。そして、今年は3人の高校新卒者を迎えることができました。近年採用した新入社員は、家庭の事情で1人退職したのですが、それ以外は皆、続いています。」
「さらに、現場作業員全体の平均残業時間がこの4年間で大きく下がりました(【図3】参照)。若手社員への教育により若手が成長し、自分たちの業務量が減った現れだと思います。時間的・精神的な余裕が生まれ、若手社員への教育時間にあてるといった好循環が生まれてきました。社員全員が心身共に健康に働けることで業務への集中度は上がり、メリハリをもって仕事に取組む姿勢ができた一つの成果と考えています。これからも10代から70代までの社員が力を合わせ、皆が健康で幸せに働ける会社でありたいです。」
【図2】現場作業員の年齢構成
【図3】平均残業時間(月)
【ポイント】
- ①社内総務課に“健康づくり担当窓口”を設置し、相談内容に応じて、配置や出勤時間の配慮といった社内での調整や病院との連携などの対応を行っている。
- ②メンタルヘルス教育が下地となり、新規採用した社員を大切にする意識や接し方が自然と現れるようになる。
- ③若手社員への教育により若手が成長し、自分たちの業務量が減ったことで、時間的・精神的な余裕が生まれ、若手社員への教育時間にあてるといった好循環が生まれている。
【取材協力】異島電設株式会社
(2023年3月掲載)
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